夜になって、清子さんと和子さんは大勢のけがをした人といっしょに田舎の山道をトラックで運ばれていました。
やがて着いた救護所のような所でお世話になることになりました。二人はどこに行くのもはなれないように、しっかりつないだ手をはなしませんでした。
やっと農家のふとんの上に横になった時、清子さんは初めて家族のことを思い出しました。
(お父さん、お母さん、今どこにおるん? 何がおきたんかわからんけど、今日はおそろしいことばっかりじゃった。このまんま死んでしまうんかと思うようなことばっかりじゃったんよ。和ちゃんと必死でにげまわったよ。今おる所がどこかわからんけど、けがした人ばっかりでおそろしいんよ)
(お父さんもお母さんも無事じゃった? ノリ君も元気でおる? みんなに早よう会いたいよー)
清子さんは、朝から今までこわい目にあうたびに、「お父さん、こわいよー!」「お母さん、助けてー!」と何度もさけんでいたような気がするのに、今の今まで家族のことを心配することさえもできなかった自分が信じられなくて、よけい悲しくなりました。
この夜から二人は、出してもらう物は水を飲む以外何一つ食べることができず、高い熱が出たり下痢をしたり吐いたりをくりかえしました。他の人の苦しむうめき声が休みなく聞こえてきます。何日も起き上がることもできないくらいにすっかり弱ってしまい、力なくうつろな目を交わすだけの二人になっていました。
🍀 被爆当日からの発熱、嘔吐、下痢、食欲不振、脱毛、血便などは放射線による「急性症状」と言われています。