本川をつたえて - 7/21

やがて、周りの家々の焼ける火が小さくなってきて、川の中の人影が少なくなりました。

二人も川からはい上がり、ふらふらとあてもなく歩き続けていました。あたりは死体が横たわっていたり、けがをして苦しんでいる人がいっぱいいたりしましたが、この時もこわいという感覚も何もなく頭の中は空っぽのままでした。

 

とつぜん、空から雨のようなものがふってきました。うでに落ちたそのしずくがヌルヌルしているのでおどろきました。しかもそれが真っ黒なのです。

「和ちゃん、これは何?」
「雨?」

「でも黒いよ!」
「ヌルヌルしとるよ!」

「えー、何? どうしたんじゃろー。気持ち悪いよー」

この時やっと、わけのわからなさをこわいと思いましたが、にげる所もなく、にげる気もなく、その黒い雨にぬれるにまかせながら考えなしにふらついていました。

 

🍀「黒い雨」は原爆爆発時のどろやほこり、すすや放射性物質などをふくんだ雨のことで、これに打たれた者はさらに放射能をあびることになり、二次的な被爆となりました。

この雨は午後3時すぎにふったと言われています。このことから、清子さんたちは約7時間もの間、川の水につかりっぱなしだったことも分かりました。