川の中には、上流から流れてきた大勢の人が水にういています。清子さんたちも、その人の流れに身をまかせるしかありませんでした。ちょうど大き目の板が流れてきました。高木さんをその板につかまらせ、二人も両わきでぷかぷかとういているのがやっとでした。
焼けるまわりの家々から火の粉が容赦なく飛んできます。悲鳴ともつかず、うめき声ともつかないざわざわとしたどよめきの中で、「いたいよー」「おかあちゃーん」「助けてー」とさけぶ声が耳に入ります。みんな顔も体もやけどだらけです。
やがて声を出す元気もなくなりそのまま水にしずむ人、すでにあおむけになってういている人、人、人でいっぱいです。
そのうち、清子さんはこの目の前で起きているどんな光景も「こわい」とさえ感じなくなっていました。頭の中は空っぽでした。
板を持つ手がしびれてきました。ふと横を見ると、高木さんが苦しそうに顔を上にあげました。
「えっ、高木さん」
「どうしたん?」
「いけん! 死んじゃあいけんよ!」
だれもどうすることもできません。高木さんはそれきり動かなくなり、つかまっていた板からするりと手が外れて、やがて水の中に消えて見えなくなってしまいました。
何が何だかわかりません。やはり、頭の中は空っぽでしたが、清子さんと和子さんは二人がはなれないように、そしてしずんでしまわないように、必死で板につかまって体を水にうかべているだけでした。