はやる気持ちをおさえながら、下足場でげたをぬいだ、その時でした。
それは突然のことでした。前ぶれもなく目の前が真っ暗になったのです。何の音も聞こえません。深い地の底に落ちているような感覚で何が何だかわかりません。
(何も見えん!)(何も聞こえん!)(どしたん?)(何が起きたん?)
こわくてこわくてたまりません。
「和ちゃん! 和ちゃん! 和ちゃーん!」
「清、清ちゃん? 目が! 目が! 何も見えんのよ!」
「うちもよ!」
「何がおこったん?」
「どこにおるん? こっちに来てー!」
おたがいが声のする方に手をさぐり、おたがいをさがしあてた二人はただだきあって、床にすわりこんでふるえているばかりでした。
どれほどの間うずくまっていたのでしょうか。
どこからか、すうっとかすかな光がさしてきました。
そのうすい光にさそわれながら、二人はふるえる手をつないだまま、おそるおそる校舎の外に出て行きました。
🍀 二人がこの暗闇に入った時が、まさに原子爆弾が炸裂した直後だったのだそうです。被爆した多くの人はこの時、ものすごい光が走り大きな音がしたと証言しています。原爆のことを「ピカドン」と言っていたのはそのためです。しかし、清子さんたちのいた下足場には窓がなく、コンクリートでかこまれた小さい空間だったためか音もなく、きのこ雲のただ中だったためか光もなかったと、のちにその時をふりかえっていました。奇跡的にやけどやけがをせずすんだのも、このコンクリートにかこまれた小さな空間にいたためだったのだろうとのことでした。