あとがき
多くの被爆者の方々は、様々な病気を引き起こす放射線障害に生涯苦しめられました。加えて、「放射能は人にうつる」という間違った認識による偏見、いじめといったいわゆる「原爆差別」による心の暴力にも苦しめられました。
清子さんも例外ではなく、病気や差別と戦う過酷な人生を歩まれたのでした。
差別は、同質性を好み人と同じであることに価値を見出し、違うものを排除しようとする行為で、社会がかかえ続けている課題です。
人の命を奪う「戦争」も、人の心を傷つける「いじめ」もどちらも、人間社会の中で最も守られなければならない人権を無視する暴力です。これらの暴力に抗して、相手の気持ちをやさしく思いやり、意見の違いを話し合いで解決することができる想像力と知恵を誰もが身につけなければなりません。そうでなければ、すべての人が心穏やかに幸せに暮らすことのできる「平和」な世界など実現するはずがないからです。
子どもたちには、身近な友達関係づくりや社会生活の中で、様々な問題を自分の問題としてとらえ、解決する方策を考え、友と手を結び、行動に移す力を培ってほしいと思っています。とりわけ、いじめを許さないやさしさと強さを小さい時から育んでいくことが平和の実現につながるものと思います。
清子さんの被爆体験は、本川小学校平和学習の教材となりました。それは、元PTA会長で本川平和資料館開設時からの運営委員長、田中八重子氏の地道な活動による清子さんとの出会いと、被爆体験の聞き取りから始まったものでした。その後、清子さんとの交流を何度か重ねた子どもたちの創作も加えながら、全校児童による音楽劇の表現活動へとつながりました。その学習の過程を通して、子どもたちの平和を求める気持ちも高まったように思います。
本書発刊に際して、自分の体験を後々の子どもたちにも知ってほしいという清子さんのご遺志を受け継ぎ、ご自身も語り部活動を続けておられるご主人・居森公照氏にはご理解とあたたかい励ましをいただきました。
また、本川小学校在職当時、様々な平和学習に取り組む過程で子どもたちからもらった感動と希望が本書作成の動機になり、後押ししてもらったことは言うまでもありません。
関わってくださいましたすべての皆さまに、心よりお礼申し上げます。
これからも、原爆に翻弄された清子さんの体験を知ることによって、子どもたちの心に、平和へ向かうため何らかの役に立ちたいという気持ちが芽生え、育つことを願ってやみません。
戦争のない平和な世界で子どもたちが生きていけますよう、心より祈ります。
奥原 球喜